きょうの NHK の「クローズアップ現代」で取り上げられてた。画面に大きく映ったのはリタリン、ハルシオン、デパス。どれも「依存症になる可能性が大きい」(英語でいう abuse、すなわち「悪用 = 依存的使用」しやすい、即効性や快感があるので必要以上に服用する可能性がある)薬剤である。
リタリンをそんなに安易に出す医師は多くないと思う。まともな医師はリタリンを出すに至るまでに何年か他の薬を順に試すはずだ。その仕組み上どうしても依存症の可能性が少しある精神安定剤を全く出さない(わたしに対してだけだったのか?)医師だっている。
しかし、どうも無責任に薬を処方する医師はいるらしい。これは精神科にかぎらず、ほかの医療分野でもある程度は同じなのだと思う。あるいは精神科という診療科目が、まだいまひとつ「日の光が当たらない」ところで、保険審査なんかも甘いのだろうか。しかし、そういった医師がいるからといって、単純に「リタリンが悪い」と言ってしまうのは筋違いだ。
リタリンは難治性鬱病の患者の一部には必要な薬だ。それを鬱病の適用からはずしてしまうのは患者側からすると損失だ。
もうひとつ、薬に頼らず鬱病を治療せよ、というのは非常に危険な論理だ。入眠・睡眠剤、精神安定剤、リタリンはともかく、抗うつ薬は必要である。その理由は [ 鬱病者が抗うつ薬をのむべき理由 ] に書いたとおり。
たぶん、こういった取材に協力している医師たちもそういうことはわかっている。NHK による「まとめかた」がどうも素人っぽくて、「クスリはこわい(特に精神科のクスリは)」という先入観を持った人が担当しているように感じる。
依存症になった人たちは気の毒である。しかし、それはリタリンが悪いのではなく、ちゃんと情報が届かなかったからである。言い換えれば、患者側もしっかり情報を収集する責任が少しはある。確かにリタリンは扱いに注意を要するという意味では、他の薬といっしょにするのは危険だが、「こわい」というレッテルは「思考停止」を意味する。どう使うとマズいのか。そういう情報をきっちり出すべきだ。
通常はインターネット上の患者側からの情報がかなり有効なのだが、リタリンの場合はちょっと不幸なことに、まるでリタリン依存がちょっとカッコいいかのようなスタンスで、(一部の中学生・高校生にとってのタバコの位置づけと似ているが、もっと実効性と悪影響がある)、リタリンの abuse の情報がたくさんやりとりされるようになってしまった。しかし、それはリタリンが悪いとかインターネットが悪いのではない。
基本的に「続けて薬をのんでいたら、だんだん効かなくなった」ときには、増量してはいけない。リタリンの場合、たぶん最初の 1 回はすごく効く。で、効いたときに何が起きるかというと、脳内物質が大量に放出され、大量に消費される。蓄えがなくなる。だから、脳内物質の備蓄がたまるまで、次にのんでも効かない。たぶん、そのことをリタリンを処方する医師はしつこいくらいに患者に言い聞かせなければならない。
また、リタリンがだんだん効かなくなって、やめようとしたら、状態がひどく悪くなって……、というのは「副作用」ではない、「離脱症状」である。(禁止薬物なら「禁断症状」という。) 「離脱症状」を起こさない方法は、服用量の漸減(少しずつ減らす)である。これは基本。これも医師は教えていないことが多い。が、離脱症状は脳内物質に影響する薬ならどれでも出る可能性がある。三環系抗うつ薬ならかなり確実に出る。
リタリンは前述のように、脳内物質を大量に消費する薬である。脳内物質の備蓄が減ってくると、薬の量を増やしてさらにキツく絞り出さないと脳内物質が出ない。その「キツく絞り出す」行為は脳には負担である。どこかが少しずつ壊れるかもしれないし、いつまでも続けられない。いったんこの仕組みわかれば単純なことだ。リタリンを「のむと何か調子がよくなるクスリ」と思っているかぎり、「効かないからもっとのまなければ」という考えになってしまう。仕組みを知れば納得して服用量を減らしたり間をあけたり、あるいはうまく依存から脱出することができるはずだ。まだまだ情報が行きわたっていないのが問題だ。
[ 追記 ] (2004/01/29)
赤城高原ホスピタルの [ リタリン乱用 ] ページを書いている医師は、リタリンを「鬱病」の適応からはずすべきだ、という意見である。この医師は信頼できる人だと判断しているし、リタリンは有効性と危険性のバランスがちょっとまずいのも事実だ。しかし、実際にやたらと長い期間にわたって「難治性うつ」をやっていた(ちょっとマシだけどまだやってる)患者にとって、少しでも効く薬が処方からはずされるのは困る。「健康保険」での「適応症」に入っていなくても、全額負担で処方してもらうことは制度上可能かもしれない。しかし、こうなるとほとんどの医師は「効く可能性」があると思っても処方しないのではないだろうか。
経験上、リタリンはごく控えめに(わたしの場合は「たまに」)使うと有効。トラックバックをしてくれた [ いつぞやのリタリン ] にもそんな経験が書かれている。
[ リタリン乱用 ] の、リタリンの効果じゃないのに、リタリンの効果と勘違いする危険がある要因、については、すべての薬について言えることなので重要。
……ところで、依存になる可能性が高いからリタリンを規制せよ、とか言うより先にパチンコ屋はなくしてもいいんじゃないか。親がパチンコ依存症になったせいで、すでに幼児が何人も死んでいる。
[ 追記 その(2) ] (2004/05/17)
リタリンの鬱病への適用については、アメリカで安易に処方するのは危険という方針が先に打ち出され(すなわち、以前はアメリカでも鬱病によく処方していたもよう)、それを参考にする形で、また同時にリタリン濫用者が増えてしまったことに対応するために、日本でも鬱病に対する処方が縮小されてきたのではないかと思われる。しかし、禁止ではないし、Nobu さんがコメントで紹介しているメーカーの添付文書からしても、とうぶんは禁止にはならないようだ。
リタリンを語るとき、「アメリカでは鬱病には処方しない」と言うだけでは全体の状況は正しく理解できない。(わたしが読むウェブページはアメリカのものが多く、他の国についてはわたしは把握していない。) アメリカでの主なリタリンの処方理由は子供の ADHD である。アメリカでは常に新薬が導入されつつ、薬批判もさかんに行われていて、子供の ADHD にリタリンを使うことについても批判する論文や本が出ている。しかし、リタリンなしではまともに学校の勉強もできず、したがって普通に進学したり就職して、まっとうな人生を歩むこともできなかった、という本人の談などを読むと、批判論に説得力を感じない。もちろん副作用とのバランスで合わない人もいて、そういう人に無理にのませるのは論外だが。
さらに「アメリカでは覚醒剤も医薬品として処方されている」という枠のなかにリタリンがある。デキセドリン(デキストロアンフェタミン)は現在もナルコレプシーと ADHD が適応症だし(RxList の Dexedrine 適応症解説)、アデラール(アンフェタミン複合剤 / RxList の Amphetamine 適応症解説)も ADHD に処方されている。また、けっこう最近(2002年の事例についての記述を見かけた)でもデキセドリン(覚醒剤)を鬱症状に対して処方する医師がいたりする。アメリカでリタリンが濫用されないのは、他にもっと濫用に適した薬物がいろいろあるから、という理由でしかないのでは。
[ 追記 その(3) ] (2004/06/27)
その後、ウェブ上の情報で、アメリカではリタリン「も」濫用されていることがわかった。他にいろいろあっても手に入りやすいので使われるのだろうか。ADHDの診断で小学生にも広く処方されていたりするようで、使われている総量が日本よりずっと多そうだ。
いっぽう、リタリンの鬱病に対しての処方については、難治性の場合に他の抗うつ薬の補助として使うと有効ということは広く認められているようで、記事や論文もたくさんある。
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